愛と憎しみの果てに(21)

2015年12月29日

 事件の事を奈保子に告白し精神的にはいくらか落ち着いたが心の霧がすっかり晴れたわけではなかった。ただ何かが変わったのは間違いなかった。私は一日も早く奈保子に会いたかった。会って事件の事や今自分が抱えている親友との問題を話したかった。
 冬休みに入り年末ぎりぎりまでバイトして私は帰省した。帰ってすぐ奈保子に連絡し会いたいと言ったが年の瀬で忙しく年明けの3日に会う約束をした。帰省してからも私の頭の中は鈴木との事で一杯だった。鈴木には中学3年の頃から付き合っている彼女がいた。彼女は私の小学校からの同級生で初恋の人だった。中学1年の時告白したがあっさり振られた。それからずっと片思いの人だった。そんな彼女と鈴木が付き合い始めたのは中学2年の修学旅行の時だった。学校の成績も良かった二人はお似合いのカップルだった。私も彼女の友達と一緒になって二人を応援した。3年に進級し同じクラスになった私と鈴木はより一層親しくなっていた。高校に進学してからも同じ弓道部に入り、失恋して退部し陸上部に移った時暫らく口も利かない時期もあったが高校を卒業するまでは鈴木は間違いなく親友だった。そんな鈴木を遠く感じるようになったのは共同生活を始めてからだった。鈴木は高校時代とそれほど変わっていなかった。変ったとすればそれは私のほうだった。東京に来てからの私はもうそれまでの私ではなかった。奈保子に事件の事を告白して以来鈴木と私は本当の親友ではないという思いが強くなっていた。鈴木と私を繋いでいたのは鈴木の彼女の存在だった。
 年明けの2日、中学時代の同窓会があり私は鈴木の彼女に再会した。彼女は病気で留年し翌年京都の看護学校に進学していた。鈴木は卒業を控え進路を考えたいからと帰省しなかった。私は鈴木と一緒に生活しその言動から鈴木が彼女の事を本当に愛しているとは思えなかった。私は彼女のためを思い、彼とは別れたほうがいい、このままだと二人とも幸せにはなれないと忠告した。彼女はただ笑って私の話を聞いていた。私は彼女と会うまではただ友達として彼女に鈴木の事を話すつもりだった。しかし彼女と話しているうちに彼女への想いが募っていた。 同窓会が終わり家に帰ってからも彼女の事が頭から離れなかった。翌日は奈保子と会う日だった。私はどうしていいか分からなかった。奈保子は一度別れた私を許しまたやり直してくれた。私にとっても過去の事件の事を告白したたった一人の人だった。そんな奈保子がいるのに他の人を好きなっている自分が信じられなかった。しかし鈴木の彼女への私の気持ちはどうする事も出来なかった。私は一晩中考え奈保子と別れる決心をした。鈴木の彼女が私と付き合うという確証は何もなかった。ただ心の中に好きな人がいながら奈保子と付き合い続けることも私には出来なかった。

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Posted by mplan at 14:51 | Comments(0) | 小説
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